『美酒復権』より T[『美酒復権』]
 六号酵母自体は、「酵母無添加」の生酛系酒母の仕込みによって生まれた、いわば天然の酵母で、遺伝的にはそれ以上さかのぼれない。逆に、六号酵母以降に誕生した清酒酵母は、すべて遺伝的に六号の突然変異であることがわかっている。
 そんな有用な六号酵母はどうやって誕生したのか。
 佐藤の帰郷後、「新政」の杜氏となった古関弘は、五代目の卯兵衛と八代目にあたる祐輔をだぶらせながらこう推測する。
「なぜ、うちの蔵から六号が出たか。それは結局、五代目が異常な人だったからだと思うんです。異常という言葉は少し変かもしれませんが。僕は職人あがりだからわかるんですが、日本酒って、経験によってタブーをどんどんつくってきて、そのタブーを守ることでお酒を腐らせない、いいお酒を造るとやってきたものなんです。だから、タブーを踏んじゃいけないんです。ところが当代を見ていると、タブーをタブーと思わないで、どんどん挑戦していく。当然、いっぱい失敗もするわけです。そういう姿を見ていたら、ハッと気づいたんです。
 八十年前の最大のタブーって低温にすることだったと思うんです。低温発酵したらお酒は腐っちゃう。ところが、五代目は研究して、低温発酵こそ美しい酒を造るためのキイだと思ったら、周りが止めるのも聞かず、当時としたら異常な低温発酵に突っ込んでいった。そして、そういう培地に酒の神様がポンと六号酵母を落としてくれた、そんなふうに思うんです」
 そして、古関はこう結んだ。
「六号酵母って『新政』の蔵付き酵母と教科書には出ているけれど、実はそうじゃなくて、五代目についてきた『人付き酵母』なんです。五代目がタブーを犯さない普通の良識的な人だったら、うちから六号は出てないんです。それは、佐藤家の血で、美しいものを捕まえたいと思ったら、周りが止めようと何しようとやるし、ああ、それが五代目と八代目なんだということがわかったんです」(『美酒復権』より)



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2018-11-02 10:44 この記事だけ表示