鴨川漁港で会った粋な人[campionamento]
 テレビを見ているとイライラ度数がどんどん上がっていく。愛人宅で狼藉を働きパフォーマンス記者会見を開く愚かな老人。ペテン師と罵り怒る幼き大尽と、罵られるこれまた小さき魂の男。食の未来なんてこれっぽっちも考えていないくせに、己を太らすためにもっともらしい蘊蓄をはき続け肩書きを増やしていく評論家。。テレビ画面では枚挙にいとまがないほどつまらぬ人々が自己主張を繰り返している。
 そんな中で、まったく無名だけどスゴイすごい人、に出会ったりすると興奮すると同時にほっとする。世の中まだまだ捨てたもんじゃないな、と。
 昨日、千葉の鴨川漁港を水産庁の上田勝彦氏と訪ねた。この漁港では風評被害はほぼ収まり、通常の漁が行われていた。朝4時、漁協に集合し、ミーティング。2隻の中型船に氷を積み込み出港する。船頭は坂本年壱漁労長。1967年生まれ。
 沖の定置網まで十数分、到着するやいなや、数十人の船員たちに的確に指示を出しつつ、黙々と自らも作業をこなしていく。小型ボートと中型船を海上で飛び乗りながらの緩急ある言動。漁のすべてを知っているという自信が背中から滲み出ている。慌ただしくも張り詰めた作業の中でも、怒鳴ることもなければ、慌てたり、混乱することが一切ない。船員たちは、すべてをこのリーダーに任せていれば安心とばかりに、彼の言葉に耳を傾け、海との駆け引きに集中する。素晴らしいチームワークだ。坂本漁労長は、2隻の船の作業を俯瞰して見ながら、携帯電話で市場に連絡をとり、ときに自らもロープを結んだり、作業の遅れている人を助けたりする。前夜、酒を酌み交わしたときに、この人はフェアな人だ、と感じたのだが、現場でもそれを実感した。単なるいい人というのとも違う(ただの正直な善人は苦手なわけで)。命を張った現場の中で、フェアさを習得してきた人、とでも言えばいいのだろうか。27歳という若さで漁労長になって、リーダーはどうあるべきか、組織をどう鍛えていくかを考え続けてきた人なのだろう。しなやかで強い「強靱さ」がいつ何時も体中から発散されていた。
 「船頭」とは、まさにこういう人のことを言うのだ。ひるがえって日本国の船頭はどうしてこうもへたればかりなのだろう。「強靱さ」を持った人なんてここ何十年も見たことがない。長い間、自己保身に汲汲とし、上っ面の言葉を吐き続けているうちにことの本質を見失ってしまったのだろうか。人の言葉が聞こえなくなってしまったのだろうか。人間としての当たり前のバランスをとれなくなってしまったのだろうか。
 政治家の中にはもちろんまともな人もいる。ただ、そのまともな人が船頭になれないところがなんともこの世のやりきれぬところだ。前に知力、気力、体力、少しの金力と書いたけれど、補足すれば、知力にはもちろんフェアネス、人心掌握力といったことも含まれる。今回会った漁労長にはそれらがすべて備わっていた。
 船頭なき国はまだまだ大海原を漂い、いろんなものを失い続けなければならないのだろうか。
 権力と無縁の(無縁でありたいと思っている)私は、しこしこと「無名だけどスゴイ人」を探す旅を続けることといたします。でも、そこから何か生まないとね。小さくてもいいから。


   DSC07635.JPG

                         DSC07684.JPG
                         坂本漁労長 陸では粋人

          DSC07687.JPG
          この日あがったのは120トンものサバ
     
                                 DSC07702.JPG
2011-06-07 13:33 この記事だけ表示