旅から戻り[campionamento]
 金沢→氷見→富山と雪の中を進む。三浦友和さんの主演映画「死にゆく妻との旅路」のプロモーションに同行して。それにしても、俳優とは、かくも大変な職業なのだと痛感した。金沢10件、富山11件ーー。地元の新聞、テレビ、タウン誌から三浦さんが2日間に受けた取材の数である。当然、質問は本映画に関することだから、よほど奇をてらった質問がされない限り、話すべき内容は同じになってくる。その忍耐力たるやいかばかりか。それでも「これも僕らの仕事ですから」と三浦さんは淡々としている。
 金沢の夜は、鍋。主計町の「なべ料理 太郎」で三浦さんをはじめ映画関係者との会食のあと、カメラマンの篠塚さんと「台場」でしんしんと降る雪を肴にさらに飲む。
 金沢から富山への移動では、レガシーの君との会話が途切れず続く。同窓。アンドレ・ジッドを愛する27歳の彼は、文学論、世代論に夢中になるあまり何度か雪道を見失う。まあ、それもまた楽し、というところで。東京での再会を約束して別れる。
 東京に戻り、1日おいて今度は九州へ。水戸岡鋭治氏との2度目の旅。同行者は文藝春秋の今泉博史氏とカメラマンの川井聡氏。水戸岡さんからデザイン・コンセプトを直接ご講義いただきながらの贅沢な九州周遊である。ちなみに、水戸岡さんにとって「コンセプト」とは「志」である。間違っても「概念」ではない。
 まずは、宮崎シーガイヤで水戸岡さんの講演を2時間余り拝聴し、旅は幕を開ける。それにしてもシーガイヤ、まさに1987年の(つまり総合保養地域整備法の、いわゆるリゾート法の)落とし子という感じである。1987年…いつかちゃんと振り返ってみたいな。
 翌早朝、JR九州の萱嶋氏が運転するクルマで霧島神宮駅へと向かう。途中、雪道がアイスバーン状態になっているところがあり、チェーンを装着。DSC06807.JPGものすごく寒い。
 リニューアルされた霧島神宮駅の入口には鳥居が鎮座。駅が生きている。
 その後、「雅叙園」でご主人の田島健夫氏と対談。田島氏の体からはエネルギーがほとばしっている。大袈裟でなく体内で小さな核融合でも起こしながら向かってくる感じだ。水戸岡さんもさすがに核の勢いにおののいていた。「雅叙園」の景観はどの角度から眺めても見事だ。DSC06875.JPGわびさびが静かに漂う。虚飾を削ぎ落としていった結果生まれたような朝食は、逆にひどく贅沢だ。さらなる進化形「天空の森」に行けなかったことだけが心残り。
DSC06921.JPG 新幹線車両基地に潜入したのちに目指したのは、湯布院の「玉の湯」。DSC07009.JPG
 これまた文化に充ち満ちた宿で、非の打ち所がない。食事もホスピタリティも十全である。部屋付きの温泉に何度も浸かりながら、DSC06952.JPGひとり過去へ未来へと思いを馳せる。
 が、宿の門をくぐり出、ストリートに出ると気分はいっぺんになえる。そこは清里なのである。アホな店が建ち並び、色彩は下品に自己を主張する。至るところからまやかしの匂いがあふれ出ているのだ。結局、これが現代日本人の偽りなき水準なのだろう。
 水戸岡さんの傍らでレコーダーを向けつつ、「ゆふいんの森2号」で博多へと向かう。DSC07014.JPG満席。意外にも韓国人観光客が多い。この列車には水戸岡イズムが溢れている。とりわけ、デッキ部分のデザインは斬新である。乗っているだけで楽しくなってくる(水戸岡さんの列車はすべてそうだけど)。
 その後、ヘルメットをかぶり、まもなく完成する博多の駅ビルへ。ここも水戸岡さんのデザインだが、注目すべきは屋上の「つばめの杜」だ。水戸岡さんはここに神社と参道を造ってしまった。DSC07026.JPG小布施の職人に依頼した植樹も完璧だ。意匠溢れる屋上は今後のビル建築の指針となるはず。DSC07028.JPG
 続いて門司港へ。1世紀の重みを纏った門司港駅はもはや古雅の域だ。DSC07035.JPG私はこの匂いを知っている。きっと昭和30年代〜40年代には、まだこういう建物はそこかしこに残っていたのだろう。ドア、取っ手、窓枠、柱、天井模様…どこかで見た記憶がある。東京だったか、松本だったか。DSC07040.JPG
長崎県を除く九州全県を2泊3日でまわる強行軍だったけれど、水戸岡イズムの深部をさらに覗くことができた。とはいえ、まだまだ水戸岡デザインは深遠で、はたしていつ核心に辿り着けるかは心許ない。ここはやはりしつこくしつこくしつこくしつこく食らいついて見て訊いて学んでいくしかないのだろう。
 夜の便で東京に戻り、新宿「匠 達広」で水戸岡さん、今泉氏と密度濃い旅を振り返る。一言で言えば、「日本とはいったい何なのか」をデザインの視点を持って振り返る旅だったのかもしれない。あまりにもパンパンで、まだうまく記憶を辿れない。
 水戸岡鋭治さん、まもなくNHKの「プロフェッショナル」に登場予定(クルーの密着態勢が続いている)。また、本取材は、「文藝春秋」(3月10日発売)の巻頭カラーグラビアに掲載されます。


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2011-01-20 10:54 この記事だけ表示